暗黒バエが人類を救う日は来るのか?!

同人誌、同人ゲーム、同人ソフトのダウンロードショップ - DLsite

この地球に生物が誕生してから35億年、生物は絶えず周りの環境に合わせて進化してきた。その進化とは一体どのようなメカニズムで起こるのだろうか?

その一端を解き明かすために、日本のとある場所で壮大な実験が行われている。

f:id:snow_in_the_moon:20220513210409p:image

「暗黒バエ実験」のことを知ったとき、僕は心が躍る思いだった。暗黒バエ実験とは、京都大学のとある研究室が1954年から現在まで続けている実験である。ショウジョウバエという小型のハエがいる。これは飼育が簡単で、さらに生まれてから死ぬまでが約2週間と短いため、遺伝の実験や観察によく使われているらしい。

真っ暗な部屋でショウジョウバエを飼育し続けて、普通のハエとどのくらい遺伝子に違いが出るのかを研究しているとのこと。60年以上経った現在において、暗黒バエは普通のハエと比べて、音や匂いに敏感になり体毛が少しだけ長くなっているらしい。しかし眼をはじめとした身体に大きな違いはなく、また走光性と呼ばれる、光に向かって飛んでいく性質も残っているらしい。

ハエたちは60年の間に1500以上もの世代を重ねている。これは人間で計算すると35000年以上かかる時間であるという。流石に恐竜には及ばないが、長い長い時間である。人間の手でこんなワクワクする実験が行われているなんて、日本って素晴らしいと心の底から思った。

しかしその後、「ロンドン地下鉄蚊」の存在を知る。ロンドンにある地下鉄は、世界でもっとも歴史が長い。1863年に世界初の地下鉄が開業したという。1863年といえば、日本はまだギリギリ江戸時代だ。徳川家が江戸城にいるので、江戸時代と言っても差し支えないだろう。それほど昔から、ロンドンには地下鉄が走っていたのだ。

それから136年後の1999年に、とある論文が発表された。ロンドン地下鉄構内に棲んでいる蚊は、最早交雑ができないほどに外界の蚊と別種で、つまり人間が作り出した環境に適応して進化した新しい種だという。この話は「種分化」のわかりやすい例として有名な話である。

この、ロンドン地下鉄蚊の話を知ったとき、真っ先に思ったのが、「暗黒バエ、意味なくね?」だった。人間がハエの進化をコントロールする実験の倍の時間で、人間が作り出した環境に適応した進化をした蚊が既にいるということは、衝撃的だった。そして、暗黒バエの実験は意味があったのか?と考え込んでしまった。その後色々なホームページを読み漁った結果、実験の意義を見出すことはできた。

できたが、同時にもう一つ、人間が人為的に進化を促し、かつもう二度と自然界に戻れないほどの、分化を果たした昆虫の存在に気がついてしまった。

それは、カイコである。カイコは、絹を取るために飼育されている昆虫である。カイコは、野生には存在しない家畜だけの存在である。もはや起源は定かではないが、少なくとも5000年前から人間に飼われているらしい。

幼虫の脚は壁に掴まるような力はなく、餌を探し回ることもしない。成虫は口が退化し餌を食べないし(これは元々の性質らしい)翅を動かす筋肉は退化し飛ぶことはできない。成虫、幼虫ともに真っ白で、外に入ればすぐに他の野生動物に捕まり食べられてしまうだろう。

家畜といえば犬や猫、牛や豚のように野に放てば野生化するものである。しかしカイコは野生に帰ることはできない。カイコに関しては、実は野生のクワコという蛾と人口繁殖で交雑できるらしい。しかしカイコは昼行性、クワコは夜行性で、たとえカイコが野生に回帰できても、出会って交尾するのは難しいだろう。

さてここまで、人間の行動が原因だと明らかにわかっている昆虫の分化の例を挙げてきた。次はそれぞれにおいて、どのような個体が子孫を残せるのか考えていきたい。子孫が残せないということは、その親が持っていた性質は未来永劫失われるということだ。正確には彼らには原種がいるので、人間の手元(蚊の場合は地下都市に)に残る個体と残らない個体ということになる。

まず暗黒バエ。暗黒バエは、暗闇ということ以外に障害はない。彼らを襲う天敵はいないし、餌も栄養は少なめだが用意されているらしい。ということは、暗闇において異性と出会えるかどうかがポイントになる。

餌を食べて生きながらえることはできても、暗闇で異性と交尾できなければ、性質は残っていかない。先述した音や匂いに敏感になったハエというのは、暗闇において異性を探知するために進化したということになる。

次はロンドン地下鉄蚊について考えてみる。まず最初に地下鉄に潜り込んだヤツは、地上での生存競争に勝てなかった個体群だと推測される。生物進化においてフロンティアを切り開くのは負け組なのだ。両生類は魚に勝てなかったから競争相手がいない陸を目指したし、鳥は恐竜から逃げるために空を飛んだし、人間はゴリラやチンパンジーに勝てずに森から出たのである。

そんなわけで地下鉄に入り込んだ蚊たち。適度な湿度と暗がりと、人間の食べこぼしや老廃物などで栄養豊富になった水たまりがあった。地下鉄蚊たちは、血を吸わなくても産卵するようになったという。地下鉄の水たまりが栄養豊富だったからだ。ここまでだと暗黒バエよりもラクチンそうである。

しかし地下鉄蚊には天敵がいた。それはコウモリ達である。コウモリから逃げ果せて地下鉄の環境下で生き残り子孫を残したもの達が累代を経て外界の蚊とは違う種類の蚊になっていった。

最後にカイコ。現代のカイコの幼虫は飼育箱に蓋をしないで飼われている。たぶん最初の最初は蓋をしていた時期もあったはずだ。だから元気よくうにゅうにゅ動いて人間の元から逃げ出すようなヤツは、現代のカイコにはなっていないはずである。また成虫で考えると、人間は蛹の繭が欲しいので、即効でオスとメスを掛け合わせることは想像に難くない。つまり自然界のようにあちこち異性を探し回る必要はない。だから飛行能力がなくても、人間の元ならば、子孫を残すことができる。また飛行能力があれば、また人間の元から逃げ出すこともできたであろう。つまり飛行能力がない個体だけが、人間の元でカイコとして残っていく。

カイコが他の2種類と違うところは、淘汰の歴史がとてつもなく長いことだ。他の2種類は、60年とか、100年とかの単位だが、カイコに至っては、3000年前とか、5000年前の記録が残っている。とんでもない昔から、人間に飼育されてきている。そして暗黒バエの時に触れたが、昆虫は寿命が短いため、世代を重ねることは人間よりも遥かに短い時間で済む。ハエの60年が人間の35000年なのだから、カイコの5000年が、人間の何年にあたるのかは、あまり計算したくないくらいに膨大な数字になるであろう。

ここまで見てきて、果たして60年ぽっちの実際である「暗黒バエ」に、果たしてその意味はあるのか?ロンドン地下鉄蚊や、カイコの例があるのだから、わざわざそのような実験をした意味はあるのか?というところだ。

だが暗黒バエ実験は、他の二つの事例と比べて、優れている点が一つだけある。それは…「全てが記録されている」という点である。ロンドン地下鉄蚊は、まったくの偶然の産物である。カイコの起源は文字があるかないか怪しい遥か昔である。それと比べて暗黒バエは、何年何月何日何時何分にどのような温度、湿度、エサであったかなどなどが細かく記録されている。だから、再現性があるし、比較実験もできるだろう。暗黒バエ実験は、人類史において、非常に意義がある実験であるといえる。ネットでこの、暗黒バエの実験についての意義を見つけた時正直安心した。いつかこの実験が、お金になるような時が来るといいなと思った。

 

参考:

「暗黒バエ」の暗闇適応に関わるゲノム配列の解析 -ゲノムの視点から環境適応のメカニズムに迫る- | 京都大学

種分化した新種といえる固有の蚊が英国ロンドン地下鉄のトンネルに存在している - 外貨なマネービジネス

https://www.itakon.com/wp/wp-content/uploads/2020/03/itakon_news_33.pdf