(※旧ブログからの移転記事です)
この本は、現在裁判中の市橋達也被告によって書かれた手記である。
しかし、犯罪者の手記としての価値は、あまりない。罪を犯したことによる良心の呵責はしょっちゅうでてくるが、肝心の動機の描写が皆無である。僕としても、件の事件にさほど興味があったわけではない。ただ、犯罪を犯して、2年半も逃げ続ける生活というものは、どういうものか。そこに興味が湧いた。
さて、世間では未曾有(みぞうゆう)の不景気である。また、定職につかず、職業訓練もせず、学校にも行っていない、いわゆるニートが社会問題となっている。そこでこの本ですよ。
この本の中で、市橋は、日本国内を転々としながら、最終的に整形費用として、90万円以上貯めている。整形しようとして病院へ行き、それが原因として、捕まったわけだが、ポイントはそこではない。逃亡生活中に、90万円貯めた。ここがポイントである。もちろんこの金は、まっとうに働いて貯めた金である。犯罪者として指名手配中の彼が、果たしてどのように金をかせいだか。身分を明かさずにまっとうに金を稼ぐ方法は、実は日本にはいたくさんあるのだ。この本はそれを教えてくれる。それはつまり、生きる気力さえあれば、道はいくらでもあるということだ。彼は、警察から逃げなければという半ば強迫観念のようなものが支えになっていたと思われるが、我々一般人とて、生きなければならないという強迫観念はあるだろう。生きることに行き詰った時に、抜け道があることを頭の片隅に置いておくと日々が楽になるかもしれない。もしくは、無職に陥ってしまえば、彼のような生活を送る羽目になるかもしれないという反面教師としてもとらえてもいいだろう。
実はこの本がニュースで取り扱われたときに、市橋の逃亡経路が扱われていたのだが、そのときなんと経路に青森県が入っていた。青森で彼がどのように過ごしたのか興味があった。まあだいたい予想は付いたのだが。ベイブリッジやアウガのことが書かれていたが、長期滞在したわけではないということだった。がっかりしたような、ほっとしたような。