【読書メモ】恐竜学者は止まらない!【止まるんじゃねぇぞ…】

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#読書 #恐竜 #子ども科学電話相談


『恐竜学者は止まらない!読み解け、卵化石ミステリー』

田中康平

創元社

2021年8月20日第1版

 

田中康平氏といえば、ラジオ番組「子ども科学電話相談」の回答者の一人として認識している。しかしその実、恐竜の卵化石研究におけるオーソリティー、第一人者である。恐竜ガチ勢キッズ達に厳しいスパーリングを仕掛ける“ダイナソー小林”の弟子として、子どもたちに優しく寄り添う“ウーリサス田中”。(小林先生も最近はずいぶん丸くはなったが)彼が学生時代から、どのようにして今の恐竜研究者の地位へ昇り詰めたのかが、本書には詳細に記されている。また恐竜の研究のために、あちこちの国へ行きたくさんの人と関わっていることが、よくわかる。また、恐竜の研究をするためには、すべての授業の成績が良くなければいけない。その辺りは、いま中学生や高校生の人が将来恐竜学者になるために参考になる部分もたくさんあるだろう。この辺りは前に読んだ『キリン解剖記』に似ているところがある。

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一方で、夢破れて恐竜とは縁遠い仕事をしているただの恐竜好きのおじさんの僕としては、本書に記されている研究過程や研究結果といった、恐竜についての新たな知識の方が価値があると考えている。以下は感想というよりは、本書を軽くまとめたような形になることをお許しください。

まず抑えるべきは、「卵化石にも学名がつく」という点だ。現生動物の卵であれば、親が産む瞬間を見れば「これはニワトリの卵だ!」ということができる。ニワトリに限らず、どの生き物がどんな卵を産むか大体わかっているので、卵だけを見ても、丸さや模様などで判別できそうだ。しかし卵の化石の場合、近くに親の化石がなければ、何の卵かはわからないという。そのため卵化石自体に、骨化石とは別に学名が付けられる。

ここから研究内容は、恐竜は現生鳥類のように抱卵、つまり卵を抱いて温めたのか(オープンな巣)それとも現生のワニやカメのように、穴を掘って卵を産み埋めたのか(埋蔵型の巣)どちらなのかということを突き止める方向に進んでいく。論文を読み進めるうちに「ガスコンダクタンツ」という謎の単語に突き当たる。これは「ガス」つまり気体の通りやすさを表した値だという。つまり卵の殻に孔が開いていてスカスカなのか、それとも密なのかという意味だそうだ。ちなみにニワトリの卵にはおよそ12000個の孔が開いているらしい。孔がたくさん開いている卵なら、埋められる卵で、孔が少ない卵はオープンな巣に産み付けられたであろうという説が、既に出ていた。ガスコンダクタンツというのは、卵の重さから、蒸発した水分を計算するものであり、生の卵でなければ調べられないという。つまり恐竜の研究には応用できない。

だから田中氏は、恐竜の卵については卵殻の密度を表す「間隙率」という値を計算して、現生動物の卵のガスコンダクタンツと混ぜて研究に使おうとした。しかし生卵の重量で測定されたガスコンダクタンツと、同じ卵で計算によって導き出されたガスコンダクタンツは、一致しないという。さらにこの説は、ガスコンダクタンツと巣の型式の因果関係が実は調査されていないことがわかった。田中氏は、世界中から現生動物や絶滅動物の卵殻を収集した。誇張ではなくアメリカ中国ヨーロッパを駆け回り、鳥からワニから卵殻を収集しており、その中には絶滅したリョコウバトの卵殻も含まれているというから驚きだ。そして「卵殻間隙率」を測りまくった。ちなみに「卵殻間隙率」でググると、WEBに公開された田中氏のガチの論文が出てくる。ネット上で論文が読めるなんて、いい時代だなと思う。そして恐竜の卵化石のうち、親がわかっている卵化石の卵殻間隙率も測り、両者を照らし合わせると、どの恐竜が抱卵したのかあるいは卵を埋めたのかがわかるという寸法だった。しかしまだ確定ではない。現生動物では「見ればわかる」ことであっても、恐竜がそうだったと証明するのは難しい。そこが面白さでもあるという。

田中氏はこの後も、中国で酒を大量に飲まされながらも一期一会の標本との付き合い方に悩まされたり、ダイナソー小林氏をアゴで使ったり(違う)しながら、今度は恐竜が巣を作った場所の研究を進めていく。クラッチ化石と呼ばれる、卵と巣が一体となった化石を調べることで「地熱を使って卵を温めた恐竜」「枯れ草の発酵熱で卵を温めた恐竜」「親が放卵した恐竜」が推測できるという。

これは『キリン解剖記』のときと同じ感想になってしまうが、歳が近い(1985年生まれだという)田中氏が羨ましい。もしやりたいことがある若い人は、夢をあきらめないで突き進んでほしい。学校の勉強は絶対に無駄にはならないのだ。